アドニスたちの庭にて
 “青葉祭” 〜木下闇

 


 ちょっぴり思わせ振りに、冬との行ったり来たりを見せていた春が、桜の季節をやっと連れて来ると。今度はそれを境にするかのように、次の季節の象徴である“緑”で世界は一気に塗り替えられる。萌え初めの淡く柔らかなところと、強さを増してく陽の光を受けて、まんまぐんぐんと深みを増してくところとが混在し、よくもまあこんなに沢山のバリエーションが“緑”ってのにはあるものだなと、思う前に息を呑む絶景。滴るようなという明るい爽やかさと、圧倒されるほどの生命たちの存在感に世界は満たされて、じっとしているのが勿体ないとばかりに、若い生気たちはそれぞれに弾け始める。


 白騎士学園高等部は、只今、新入生歓迎と銘打った球技大会、春の青葉祭の真っ最中。今でこそ、幼稚舎から大学院までという長い長いスパンの一貫教育で有名な学校だが、昔は高等部と大学部から始まった学園だったので、右も左も初顔合わせな人ばかりという馴染みの薄いお友達との親交を深めるためにと、催されたその名残りの行事なのだとか。今では、持ち上がり組と高等部からの途中入学をした面々とが、同じ一年生同士で馴染むために役立っているような節の方が強い大会と化しているものの、
「桜庭センパイっ!」
「ガンバですっ!」
 下級生が憧れの上級生へ黄色い声を上げるという光景もまた、毎度のこと。すらりとした長身を活かしての、それは高い位置から振り落とす桜庭会長のダンクシュートがきれいに決まり、コートを取り巻くギャラリーたちからははしゃぐような歓声がわっと上がる。三年生同士の対戦はなかなかの盛況を見せていて、端正な顔へとかぶさるほど長いめの、甘い栗色の髪をさっと掻き上げて払えばそれだけで、ひゃーvvとも わ〜っ♪とも言いがたい、微妙な声が上がってやまない観客席だったりし。
“共学だったらそうでもないんだろうけどな。”
 いやいや、女子の歓声がもっと凄まじく上がって、収拾がつかなくなるのではありませんか?
“そんでも音色がな。ああいう“微妙に野太い声”ではなかろうよ。”
 それこそ“微妙”なお顔になって、バインダーに留められたスコア表に手際よく試合展開を記録している金髪痩躯の係員さん。アメフト以外の団体球技はどうにも苦手だからと、執行部の記録員へととっとと立候補して試合への参加は免除されてるヨウイチさんだが、一体どこで誰がどんな画策をしたのやら。気がつけば某クラスのバスケットの試合にばかり駆り出されているもんだから、
『…いい加減にせんと青葉祭自体をバックれっぞ、こら。』
『や〜んvv
 乱暴にも胸倉掴み上げた美人さんへ、言いようほどには怖じけもせず。
『だぁって、元はと言えば妖一の方こそ、僕の出る試合全部に関わらないようにって、手を回してシフト組ませてたんじゃない。』
 にぃ〜っこり笑って甘えるようなお声でそうと言ってた桜庭さんで。しかも、ひょいと立ち上げられてる前髪が…風もないのに揺れてたからね?
『………そんなことで怒るとは大人げない。』
『はい?』
『まあまあ。今の会長にとっては、蛭魔くんとの関わり方のみが全てへの“基準”になっているのですから、しょうがありませんて。』
 進さんと高見さんの会話から、桜庭さんはどんなに和やかに笑っておいででも…前髪のあのトサカが微妙に震えている時は、少なからず怒っているんだよって教えていただいた瀬那くんだったのはともかくとして。
「やたっ! 3ポイントシュートっ!」
 総得点の内の半分以上を彼が叩き出すという、なかなか目立った活躍を示したところで、3−A VS 3−Cの試合はタイムアップ。これで桜庭会長の率いるチームは準決勝へと駒を進めたことと相なった。
「進は確か今年はフットサルだっけ?」
 昨年はドッジボールでダントツの優勝を飾ったのに貢献した恐ろしい腕っ節を、だが今年はあまり生かせない競技に割り振られたらしく、
「それでも、唯一 無得点記録を更新中のGKさんですものねvv
 セナくんがお兄様の誉れへと、それは嬉しそうに微笑んだ。生徒たちがボールを追って溌剌と駆け回る“青葉祭”もそろそろ中日。生徒会首脳部の皆様も、それぞれが参加なさってる競技の試合の合間を縫って、お祭り全体の進行状況報告を実行委員会や執行部から聞き取る作業もこなしていらっしゃる。今もいつもの緑陰館へ向かいつつ、そんなこんなと語らってらっしゃった皆様の、一番後からついてってたセナくん。羽織ってたカーディガンのポッケから、短い電子音が聞こえて来て、
「あやや…。」
 あわわと慌てつつ立ち止まって、小さな携帯電話を手に取った。原則としては、授業時間に当たる時間帯は電源を切っておくのが、この白騎士学園での携帯電話への基本ルールなんだけれど。今は学校行事中だし、全校生徒が広い構内のあちこちでてんでに行動している状態なので、校内放送をガンガン鳴らすのはご近所へも迷惑になるばかり。という訳で、この期間だけは特別に、連絡用のツールとして朝っぱらからのずっと、活用してもいいことになっている。そのお電話が鳴ったのへ、セナが慌てて応対に出ると、
【セ〜ンパイ♪ オ・レ。】
「あ、水町くん?」
 ちょっぴり悪戯っぽいお声は、電話を通してのそれさえもうすっかりと覚えた、あの大きな後輩さんの無邪気な呼びかけ。最初の一声だけで、あのゴールデンレトリバーみたいな…ふさふさな茶褐色の長髪と愛嬌たっぷりの笑顔がぽんと脳裏に浮かぶ、大きいけれどかわいい子。
【あのね、俺ら、今、敗者復活戦で勝ち残ったんだよ?】
「え? わ、凄いね〜。」
 昨日は“負けたの”としょげてたのにネ、そんなの一体いつのお話?と覚えていないかのようにワクワク弾んだ声だったので、
“ゲンキンなんだからなvv”
 こっちは心配してたのに。小さいながらも甘えられてる“先輩”だからと、気を回してたセナくん、少々拍子抜けしちゃったらしくって。
【このまま俺らを負かせたチームが勝ち続ければ、あのね、準決勝か3位決定戦に出られるんだって。】
「そうなんだvv
 ふんふんと軽い気持ちで聞きながら、確か彼らを負かしたとこって…と、バレーボールの対戦表が載ってるプリントをポッケから取り出しかけて、
「あ、そのチームって…。」
【そだよ。今日、小早川さんと試合する3年のチーム。】
 あわわ、それって、
“高見さんトコだよう〜〜〜。”
 そりゃあ背丈の高い人たちを集めた、今大会屈指の最強チームじゃあないですか。小さな肩越し、こちらを微笑ましげに見やってるお兄様たちの中にあって、やっぱり一番背が高い執行部部長さんと眸が合って、ふににぃ〜〜〜と“仮想ネコ耳”が寝てしまったセナくんで。
【だから。小早川さんが頑張ってくれるのも嬉しいし、もしも万が一負けちゃったら、俺らが仇を討ってやるから。】
「どうもお願いしますです。」
 こらこら、まだ試合前だってのに負けると決めてどうしますか。
(笑) お電話の相手へでさえ表情豊かに応対している愛らしい弟くんなのへ、
「どうやらあの後輩くんかららしいですね。」
 高見さんがクスクスと笑い、
「そみたいだね。」
 物凄い身長差の彼らが向かい合い、仲睦まじく話しているところ、校内でも時折見かけるものだから。桜庭さんにも暖かな雰囲気はすぐに悟れたらしく、そりゃあ楽しそうな笑顔になったものの、
「…し〜ん。そんな怖い顔、するもんじゃないの。」
 やっぱり立ち止まって、弟くんがお話ししてる様を眺めやってた大きなお兄様の横顔が…いえね、こちらさんもまた、慣れのない人にはどこがどういつものそれと違う“怖いお顔”なのか一向に判らない無表情なんですけれど。
“…この、少々眉根が力んでいる顔は、怒ってるとか不機嫌ですって顔な訳だな。”
 そんな違い、判らなくたっていいのと桜庭くんから言われたものの、情報収集の専門家という身であるせいか、こうまで間近に“判らないこと”があるのは面白くなかったらしき金髪痩躯のお兄様が“ふ〜ん”とチェックを入れていたものの、
“…まま、あの連中が気になるってのは、こいつだけじゃあないからな。”
 もちろん、気になるカラーというか方向性は全く違うのではあるけれど、実のところ、他人事のようにクールに構えて見せてるそんな蛭魔さんもまた、あの背丈の大きな新入生さんたちへ、依然として何かしら注意のアンテナを向け続けておいでの模様。

  『ああ、噂のそいつらだったら今日逢ったぜ。』

 アメフトのクラブチームの練習日とあって、専用グラウンドでの合同練習に汗を流してから後のこと。更衣室にて顔を合わせた、ラインマンの後輩さん、黒美嵯高校の十文字くんへと声をかければ、フェンスの外へと飛び出したボールを探してたセナとたまたま逢って話してたその同じ時に、これまた たまたま来合わせた彼らとも顔を合わせることとなったとあっさり話してくれて。
『あんたに訊いてた通り、二人とも無茶苦茶デカくてビックリしたが。』
 顔を合わせるなり、こっちをセナに絡んでた柄の悪い不良みたいに決めつけやがってよと。いきなり眦(まなじり)吊り上げて掴み掛かられそうになった顛末を話してから、その第一印象へは少々不満があったらしき不機嫌っぷりを示す十文字くんへ、
“…まあなぁ。”
 挑発的な容姿風貌ではとっつかっつな自分が言うのもなんだけれど、あのどこか頼りなげでお人形さんみたいに愛らしいセナくんに、この…いかにも“ああん?”と目許を眇めて突っ掛かるようなお返事しか出来ないんじゃなかろうかという雰囲気バリバリな恐持てのお兄さんが、間近に寄って構ってる図なんてものを目撃したなら、
“ああまで懐いてる坊主なら、すわ先輩の一大事とばかり、飛んでも来ようってもんだろさ。”
 こらこら。だから、それをあんたが言いますか。
(苦笑)
『随分と力抜いててサ。あれって、すっかりガッコを楽しんでますって雰囲気だったけど。』
 まだ未成年なんだしよ、親の都合での帰国だってっんなら、それも仕方がないんじゃねぇの? こちらはめっきり日本人な十文字の見解だったが、
“そういうものだろか。”
 蛭魔さんとしては…納得が行かないことがどうあっても払拭出来ないらしくって。それだのに、だったら直接本人たちへ当たってみるという、最も近道で確実に真相を得られるだろうアプローチは出来ないまま、今に至っているというところ。
「…うん。それじゃあね。」
 手際よく通話を切り上げて“お待たせしてすいません”と、お兄様たちのところへ駆け寄って来た小さな後輩さん。中でも、少しばかり案じるようなお顔になってる黒髪のお兄様の視線が待ち受けていた傍らへと飛び込んでから、
「? どしました?」
 屈託のないお顔を向けたセナくんであり。そんなことを本人へダイレクトに訊く辺り、セナくん自身もまた、お兄様の微妙な心理が判っていないらしい。ホントに繊細なんだろか、それとも、自分になんかへそれほどにも深い思い入れを向けてもらっているのだとは、全く自惚れていない、何かと及び腰なところの多い彼ならではな謙虚さの、これもその現れということか。
「…いや。」
 何でもないなんて誤魔化しで言を濁す進であること、そのまま自分の胸の裡
うちにだけ抱えて隠し通せる奴だから困ったもんだと、苦笑した桜庭さんと高見さんが、
“告げ口にならない程度に、セナくんへは仄めかしておきましょうか?”
“そだね。あいつ、僕らには遠慮なく“暗黒重量磁場”を展開してくれるから鬱陶しくって。”
 なんですか、その“暗黒重量磁場”って。
(笑) 表情は変えぬまま、なのに…ず〜んと落ち込んで場の空気を一気に重くするとか、そういうことなんでしょうねと、何となくの想像はつきますが、それにしたって斟酌がないお言いよう。さすがは付き合いの長い同士で、目線のやり取りだけにて通じ合ってるそのままに、肘の先でお互いをつつき合ってる、背の高いお二人さんのその向こう。こちらさんは自分へと視線を向けてると気がついて、
「蛭魔さん?」
 たかたかとセナが傍らまで寄れば。おやや、気がつかれてしまったかと、苦笑して見せる、こちらさんは別な意味合いでの“ツーカー”が通った模様であり、
「いや…。昨日、十文字に逢ったんだって?」
「あ、はいvv
 その時のあのちょっとした経緯を思い出したらしきセナが、だが、こちらの彼はクスクスと笑ったので、
“一触即発ってムードだったと聞いたんだが。”
 そんな渦中にあったのに、思い出し笑いが出来るんだから、こいつも結構図太い奴だよなと再認識していれば、
「そうそう、十文字くんといえば。この春は、そんなに大騒ぎにはならなかったんですか?」
「? 何がだ?」
 別に自分が保護監督している存在ではないのだが、セナから見れば、彼はこの蛭魔の“後輩”にあたるからなのか。
「あのあの、黒美嵯高校って、割と喧嘩に強い人が集まりやすいそうだから。去年の十文字くんみたいに、先輩へ挑戦するような新入生が入って来てはいないのかなって。」
 だとしたら、望まない喧嘩を売られたりしてやいないかと、彼なりに心配なのだろう。直接の知己とは微妙に違うような人物のことにまで、こんな風に気を配るおチビさんへ、
「ま。今んところは無事安泰らしいがな。」
 苦笑をしもって応じてやる。
「今のところ、ですか?」
「ああ。あいつのシメ方は直接的すぎるからな。」
「…直接的?」
「拳で叩き伏せて、文句ある奴はかかって来いってやり方なんでな。どっから見ても分かりやすい反面、穴も多い。」
「穴?」
 そういう…権力掌握への手管とか、権謀術数なんてもの、これまでの人生で全く縁がなかったセナにしてみれば、蛭魔が下す評さえ理解の範疇外であるらしくって。キョトンとして見せる稚いお顔へ くつくつと笑ってやり、
「まあ、お前は知らなくたって良いことだから。」
 そんな風に言って、話題を勝手に“終しまい”としてしまい、子供扱いされたと頬を膨らませたマスコットくんへ、
「十文字のことより。お前にはもっと大事にせんといかん奴がいるだろが。」
 こそこそっと素早い耳打ち。え?と不意打ちされたよなお顔になったセナくんへ、
「お兄様だよ、お兄様。お前がこのところ“可愛らしい後輩”に構けてばっかなもんだから、あいつ、ちょっとばかりヘソ曲げてんだぜ?」
「はやや…っ。///////
 それこそ“直接的”なご指摘へ、それは…気がつきませんでしたと真っ赤になって。顔をそちらへと向けた小さなマスコットくん。言われて見れば、何かしらを胸の底に押し込んで、こちらをこそ気遣うような。自分を押さえてらっしゃるようなお顔のお兄様だとやっと気がつき、そのままぱたぱたと傍らまで駆け寄った、そりゃあ素直なかわいい子。
「あのあの…っ。」
 すがるようなお顔になって、そぉっと腕へと小さな手を触れさせれば。お兄様の大きな手がそれへと重なり、じっとじっと見つめて下さる。気にしなくてもいいんだよって、優しく見下ろして下さるのへ、うううんとかぶりを振って、
「ごめんなさいです…。」
 懐ろへとおでこをすりすりと擦りつけるセナであり。何とも可愛らしいこの所作は、セナにしてみれば無意識の甘え方だったのだろうが………、

  “そうか、もうそんな“じゃれっこ”をしている二人だったのか。”

 これは思わぬところから知ることとなった彼らの進展ぶりの一端だねと、苦笑する人がいるやら…おいおいとうんざり顔になっちゃった人がいるやら。バカップルのラブラブモードって、本人たちには素敵にムーディでも…部外者には“公害認定もの”だったりもしますからね。公の場ではなるだけ慎むことをお薦め致しますです、はい。
(苦笑)
「何だよ、妖一。あとで僕と高見でからかってやろうって思ってたんだのに。」
 なのに先にセナくんへ執り成しのヒント上げちゃってさと、ややもすれば不満そうに言ってくるもんだから。こらこら。それってどういう魂胆ですか、桜庭さん。
(笑) やっぱりかいと、こちらも予想はしていたらしき諜報員さんが呆れたようなお顔になったものの、
「十文字くんって聞こえたけど。」
「…こんの地獄耳。」
 向かい合ってたセナにしか聞こえないような声音を意識して出していたのだが、それでもさっくりと聞かれていたらしく、
「何だよ。アメフト絡みの話だったんじゃないんでしょ?」
 だったら自分が気にしてもいい筈だと。それも何だか微妙に理屈がおかしい、胸の張りようをする会長さんへ、
「別に、お前が神経尖らせるような浮いた話じゃないってばよ。」
 苦笑して宥めようとしたところが、

  「…冗談抜きに。
   今年の向こうの新入生の中にサ、ちょっと危ない奴がいるらしいよ?」
  「危ない奴?」

 おや、それは知らなんだと、美麗なお顔を珍しくも素のままにキョトンとさせて、こちらへと向けてくる妖一さん。この春はすぐの間近に気になる対象が忽然と現れたのへ気を取られていたものだから、周辺への警戒というか気配りが多少はおざなりになってもいたようで、
「何でも、一浪したんで年齢は十文字くんと同じ。しかも、その一浪した事情ってのがサ。暴行事件起こして少年院にいたからだっていう話でね。」
 おやおや、そりゃまたベタな話だなと眉を寄せた蛭魔だったが、

  「そんな奴が、スポーツ奨励校の黒美嵯に、一浪してまで入学したのはさ。
   その“スポーツ絡み”のトトカルチョの窓口を請け負ってたからだってのが、
   専らの評判なんだよ。」
  「…ほほぉ。」

 おやおや。実はそんなきな臭いお話でしたか。しかも、
「請け負ってたって言い方だってことは?」
「うん。ホントは去年から担当する予定だったらしいのが、事件起こして入学出来なくて。」
 間の抜けた話だろと苦笑した桜庭だが、
「ほら。ウチの体育祭へトトカルチョ張ってた連中。あれの系列だって話なんで僕は漏れ聞いたんだけど。妖一に伝わってないって事は、十文字くんが黙ってたって事じゃないのかな。」
「………どういうこった?」
 先程までのセナくんよろしく、寝耳に水なお話へ、ついついそれからどうしたと訊くばっかになってる諜報員さんへ、
「だから。そいつが黒美嵯へ入り損ねた暴行事件っての、十文字くんの耳にだって当然入ってた筈じゃない。」
 駅前商店街とそこから連なる沿線の繁華街でタムろってた、結構凶悪な性根と腕っ節をした高校生たちを、拳一つで、しかもほんの1カ月でシメた一年生。さっきはその方法を“直接的だ”と評したものの、それでも…そんなヤバげな情報、たとえ本人は姿を見せられない顛末になっていようと、断片くらいは耳に入ってただろうし、
「それに。そいつの代わりってことで目をつけて、彼につなぎをつけようとしたその筋の人間だっていたかも知れない。」
「ああ、そうだよな。」
 あの野郎め、そんな危ない話は聞いてねぇと。むっかり来たらしき妖一さんだったが、

   「………で?」
   「なぁに?」
   「そんな話、ただでくれたって訳じゃああるまい。」
   「やだなぁvv 僕と妖一の仲じゃないの♪」
   「じゃあ、これから奴んトコ直行して、
    そうさな、あいつも結構頑固もんだから、
    夜っぴいての我慢比べで話をつけて来てもいいって訳だ。」

   「………すいません。その前に構ってほしいです。」


 大きな図体のお兄さんが自分よりも華奢で小さいお兄さんの、シャツの裾を心許なげに引っ張ってる姿は、微妙ながらも何とか…擽ったいほど可愛らしい構図。そんな決着こそ、何だか少々ギャグっぽい“お約束”で落ち着きましたけれど、物騒なお話が持ち上がってたってことじゃあありませんかね、それってば。忙しかったなり、それでも安穏と過ごしてた昨年度の一年間の底の方に、そんな厄介なものが潜んでいたとはと、忌ま忌ましげに臍
ほぞを咬んだ妖一さんであり、

  “あったく、どいつもこいつも…っ。”

 一時にあれこれと立ち上がってしまった“気になるフラグ”たちへ、我が身が3つ4つあったら良いのにと、髪を揺らして吹き過ぎる風へまで、どこか歯痒そうに眉を寄せてしまった諜報員様でございます。







          ***



 大きな手のひらには玩具みたいな頼りなさにて、すっぽりと収まってしまう小さな携帯電話。それをにまにまと笑いもっていつまでも見やっていた相棒へ、
「なんて腑抜けた顔だろな。」
 思ったまんまを斟酌なく言ってやれば、
「だってぇ〜vv
 こんな行事の最中だもん、昨日はたまたまラッキーだったけど今日は逢えないかもって思って寂しかったからサ、他の奴が電話使ってるの見て、あ・もしかしてとかけてみたところが、同じ学校内にいるのにって叱られないでそのままお話ししてくれた。そっか、校則上、使ってはダメなのは正規の授業をしている時だけなんだと、それが判って浮き浮きと嬉しい、只今のところは小早川先輩のペットも同然な水町くんであるらしく。
「そうやって浮かれてばっかいるから、肝心の“彼”へは全くアプローチが掛けられないままじゃないかよ。」
「だからそっちは駿に任せたってば。」
 だって俺、無難に近づくためのお膳立てだの交渉だの、そういうの向いてないしサ。けろんと言い切るお友達の、その言いよう。言われた筧くんには口惜しいことながら…仰せの通りでございますな部分まるけでもあって。
「けどな、俺よりもお前の方が、接近はしやすい状況になっているんだぜ?」
「小早川さんに橋渡しを頼むとか?」
 おお、そういうところは辛うじて判るのかと。ポーカーフェイスなままながら、内心では“ほーっ”と安堵の吐息を深々とついた相棒さんへ、

  「ま、夏休みまでは好きにして良いって話なんだしサ。」

 そんな焦るななんて、いかにもお気楽な言いようをする、天真爛漫なアフガンくん。ようやく込み合ってたシャワーが空いたらしいからと、ベンチからぴょこりと立ち上がってそっちへ向かった大きな背中。やれやれと見送りながら、手ぶらだった彼の分もバスタオルを手にし、その後へと続いた筧くんであり。こちらさんもまた、何やら腹に一物あるよな気配で。お話の混迷度は、そうは見えないながらも…まるで陽射の濃さに反比例して木陰の闇色が濃くなっていくかのように、どんどんと深まってゆくようでございます。






   〜Fine〜  05.6.13.〜6.28.


  *うあ〜〜〜。
   何ともまあ、放ったらかしにもほどがあるぞな置いてきぶりです。
   のどかな中に、何やら暗雲垂れ込めて来そうな彼らの周辺でございまして。
   そういうお話を構えて置きながら、
   こんなにも放って置くとはふてぇ野郎です、この筆者。
   しかもしかも別のパロディの方も、どこか“風雲、急”なモードなので、
   またもや置いてけぼりをやらかしそうです、こちらさん。
   無邪気なばかりの水町くんたちは、
   一体何の用があって来日し、しかもこの学園へとやって来ているのか。
   頑張って続けますので、どか、長い目で見守ってやって下さいませです。

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